金、1983年以来最大の週間下落「5,589ドルの頂から4,495ドルへ」
3月19日、金の先物価格が約5%下落し、1オンス4,648ドルまで沈んだ。週間では11%を超える下げで、1983年以来最大の週間下落となった。記事執筆時点の3月23日にはさらに4,495ドル付近まで下落している。
数字だけ見ると一週間の出来事に見えるが、実際には積み上がってきた構造的な矛盾が一気に崩れた格好だ。短期的なボラティリティは高い状態が維持されている。
5,589ドルからの下落率
最長の連続下落
(週間▲11%超)
頂点から18% どこから転げ落ちたのか?
金は2025年を通じて異様なペースで上昇した。金と銀はともに2025年に記録的な上昇を見せ、それぞれ66%、135%高だった。今年に入ってからも上値を追い続け、金先物は史上最高値5,589ドルをつけた。ところが3月19日時点で4,551ドルまで下落。2ヶ月足らずで約18.5%の下落となり、下落は7日連続で2023年以来最長の連敗記録となった。
「有事の金」が売られた理由は何だろう?
中東では米国・イスラエルとイランの戦争が3週目に入っている。教科書通りなら、地政学リスクが高まれば金は買われるはずだ。ところが今回、その法則が常に正しいわけではないという例を作りつつある。
理由は原油だ。米国・イスラエルによるイラン攻撃がホルムズ海峡を封鎖し、原油価格は紛争開始以来40%超急騰。ブレント原油は1バレル108ドルを超え、WTIも96ドル前後で推移している。
エネルギー価格の急騰はインフレを直撃する。インフレが再燃すれば、中央銀行は利下げどころか利上げを余儀なくされる。FRBは2会合連続で金利を据え置き、市場は今年の利下げを完全に織り込み解除した。オーストラリア準備銀行など一部の中央銀行はすでに利上げに動いている。
金は利息を生まない。金利が上がれば、国債など利回りのある資産と比べたコストが嵩む。それが売りを呼んだのかもしれない。
誰が売ったのか
Kingswood GroupのPaul Surguy氏は「投資家が最も売りやすい資産から売っている段階であり、これまで安全資産として機能してきた金属が次の売り対象になっている」と指摘した。
Netwealthのイアン・バーンズCIOは「金価格の変動の拡大は、金が広く金融ポートフォリオに組み込まれた結果だ。金融的な投資家、とくに高い借入コストに直面しているレバレッジを効かせたファンドがリスクを全面的に削減している」とした。
要するに、今回売ったのは「地政学リスクを恐れた投資家」ではなく、「証拠金を維持できなくなったレバレッジ勢」だ。金がホルムズ海峡封鎖のニュースを受けて5,296ドルから5,423ドルに一時急騰した後、高値から6%超の急反落となった。上に引っ張られて飛びついた投資家が、逆回転で叩き落とされた形だ。
筆者も正直なところ、インフレ耐性資産を持たないことが怖くなっていたので、自身が炭鉱のカナリアであり、教科書通りの高値掴みをやりかけていたのかもしれないと少し「怖い」という感情を今回の相場では感じている。
鉱山株も連鎖下落中
金価格の急落は金鉱株にも波及した。金採掘大手アグニコ・イーグル・マインズは5.77%安の184.78ドルで引け、B2ゴールドは8.48%安の4.21ドルで終了した。ETFも逃げ場はなく、ProShares Ultra Silver ETFは木曜日の市場開始前の取引で20%下落し、iShares Silver Trust ETFも4.4%安だった。
「これは調整か、崩壊か」
市場関係者の見方は今のところ二つに割れている。
強気派はこう言う。JPモルガンは2026年末の金価格目標を1オンス6,300ドルで維持し、ドイツ銀行も6,000ドルを据え置いた。両行とも今回の下落を構造的な強気相場の中の一時的な調整と見ている。テクニカル面では4,550ドルと4,360ドルが当面の支持線として意識され、200日指数移動平均線の4,200ドルが強気・弱気を分ける最重要ラインとなっている。
弱気派はそれに疑問を呈する。ブルームバーグのマイク・マクグローン氏は、金がかつての安全資産から投機的リスク資産へ性格を変えつつあるという見方を示している。つまり「下がるべき時に下がれる資産」になってしまったということだ。
エド・ヤードニ氏は年末6,000ドルの目標を維持しつつも、「金が地政学的リスクの高まり・インフレ上昇・米国の財政赤字拡大という状況で期待どおりに反応しないなら、目標を5,000ドルに引き下げることも検討する」と述べた。
今後の焦点
3月23日は4,645ドルから4,760ドルのレンジでの揉み合いが予想されており、方向感は出にくい見通しだ。今週は米国の製造業・サービス業PMIや週次失業保険申請件数が発表される。なお、2月のPCEインフレ指数の発表は当初3月27日の予定だったが4月9日に延期されており、当面はCPI・PPIと雇用データが市場の主要な判断材料となる。
金が「安全資産」として機能するかどうかを試す局面は、まだ続くのかもしれない。
※本記事は情報提供を目的としたものであり、投資助言ではありません
