1機の数万円の民生用機器が、数億円の最新鋭ミサイルを浪費させる。この絶望的なまでの「コストの非対称性」は、現代の戦場を支配支配している。
ドローン戦術の普及は、単に兵器の無人化・省人化をもたらしただけではない。国家間の安全保障体制において、「防衛」という行為自体を経済的な特権階級(先進国)のみに許される贅沢品へと変質させているのである。この防衛に対するコストの現実を直視しなければ、今後の国際秩序における戦火の拡大を予測することはできないだろう。この現状が続けば兵器は拡散する。
圧倒的なコストの非対称性:数字が示す防衛の限界
現代の紛争において猛威を振るう自爆型ドローンやFPV(一人称視点)ドローンの調達コストは、驚くほど低い。例えば、イラン製のシャヘド136型ドローンは1機あたり約2万ドル(約300万円)、市販品を改造したFPVドローンに至ってはわずか500ドル(約7万5000円)程度で調達可能である。
対して、これらを空中で撃破するための旧来型の防空システムのコストは桁違いである。 米国製のパトリオット(PAC-3)ミサイルは1発あたり約400万ドル(約6億円)、比較的安価とされる携帯型防空ミサイル(スティンガー)であっても1発あたり約4000万円を要する。
図表1:攻撃と迎撃のコスト非対称性
(攻撃)
(攻撃)
(迎撃)
(迎撃)
(攻撃)
(迎撃)
500ドルの脅威を排除するために、400万ドルのミサイルを消費する。この迎撃のコスパの悪さは、マクロ経済的視点から見れば敗北に等しい。戦術として破綻している。弾薬の枯渇と国家予算の圧迫を引き起こすこの「コストの非対称性」の許容は、潤沢な防衛予算を持つ一部の先進国にしか不可能な芸当である。
アメリカ軍も、現在の中東情勢において、ドローン兵器が想像以上の脅威と被害をもたらしていると正式に認めている。
途上国に突きつけられた二者択一と「攻撃」への傾斜
この現実が、発展途上国や経済基盤の脆弱な国家にどのような選択を強いるかは明白である。高額な迎撃システムを構築・維持できない彼らに残された合理的な安全保障上の選択肢は、「防衛を捨て、より安価な攻撃兵器(ドローン)を大量配備し、相互確証破壊的な抑止力を構築する」ことのみとなる。
図表2:防衛経済学に基づく意思決定のサイクル
コスト高騰
軍拡・戦火拡大
の大量配備
→ 外的介入により上記の負のサイクルを断ち切る
ドローンの迎撃手段を持たない国家間において、双方が「安価な攻撃兵器」の増産に走ればどうなるか。結果として生じるのは、際限のないドローン軍拡競争と、僅かな摩擦が大規模なインフラ破壊の応酬へと発展する「戦火の拡大」である。迎撃手段の欠如は、紛争のハードルを極端に押し下げる要因となる。
「金儲けの下心」でも拡散への抑止力になれる
この破滅的な兵器拡散の連鎖を断ち切るためには、新たな考え方が必要である。それは、先進国による「低コストな迎撃システム」の開発と、途上国への輸出(拡散)である。
現在、軍需産業を抱える先進各国では、高出力レーザー兵器(DEW)やマイクロ波兵器、あるいは安価な迎撃用ドローンなど、1発あたりの迎撃コストを数ドルから数千ドルに抑える次世代防空システムの実用化が進められている。製造コストは非常に高いが、運用コストの低い選択肢だ。
これらを途上国へ輸出する背景に、軍需産業の「金儲けという下心」や、先進国による影響力拡大の意図があったとしても、国際社会全体から見れば極めて合理的な安全保障のメカニズムとして機能する。防衛産業の利益追求が原動力であっても、結果として「安価な矛」に対する「安価な盾」が世界中に普及すれば、ドローンによる先制攻撃の有効性は著しく低下し、戦火の拡大に対する強力な歯止めとなるからだ。
倫理的・道義的な議論は一旦脇に置く必要がある。現代の安全保障において、兵器の拡散を防ぐ手段が「防衛システムの意図的な拡散」であるという逆説は、おそらく事実であろう。先進国がその技術的優位性と防衛ビジネスのエコシステムを駆使し、低コストなドローン迎撃網を市場に供給し続けない限り、非対称なコストがもたらす紛争の連鎖・拡大を止めることはできない。
日本においても、迎撃システムを円借款とセットで防衛システムの導入支援を行う議論を多くの人が行うべきだろう。殺傷兵器との輸出とは別軸の話であるはずだ。
