カーボンニュートラルの実現に向け、世界規模で次世代原子炉の開発競争が激化している。中でも、冷却材にヘリウムガスを使用する「高温ガス炉(HTGR)」は、極めて高い固有の安全性を持ちながら、高効率な発電とカーボンフリーな水素製造を両立させる技術として重要な位置を占めている。特に、日本の高温ガス炉技術は、他国の追随を許さない特異な技術領域に到達している。
高温ガス炉とは?
高温ガス炉(HTGR)は、炉を冷やす「冷却材」として水の代わりにヘリウムガスを使用し、中性子を減速させる材料に黒鉛を用いる原子炉です。従来の原子炉よりもはるかに高い温度(約700〜1000度)の熱を取り出せるため、高効率な発電に加えて、熱を利用した水素製造などの産業利用が可能です。また、万が一冷却材が失われても、自然放熱によって炉心の温度が一定以上上がらず、炉心溶融(メルトダウン)が起きにくいという物理的な特性を持っています。
世界を牽引する日本の「原子炉出口温度」
高温ガス炉の性能を評価する上で、最も重要な指標の一つが「原子炉出口温度」である。温度が高ければ高いほど、熱効率が向上し、産業利用の幅が飛躍的に広がる。各国の開発状況を俯瞰すると、米国企業(A社、B社)の設計や中国の試験炉・実証炉の出口温度は、概ね660℃から750℃の範囲に留まっている。
※図は日本原子力研究開発機構(JAEA)の公開した画像を基に再構成。
これに対し、日本原子力研究開発機構(JAEA)が有する高温工学試験研究炉「HTTR」は、世界最高水準である950℃の出口温度を達成している。この圧倒的な高温状態を安定して生み出す技術こそが、日本の最大の強みであるのです。
900℃超がもたらす産業革新:クリーン水素の大量製造
他国が700℃台での実用化を先行させる中、日本が950℃という極限の温度にこだわる理由は、その「熱の用途」にある。900℃以上の熱を安定して取り出すことができれば、化石燃料に依存することなく、水を熱分解して大量のクリーン水素を製造することが可能となる。発電に留まらず、製鉄や化学産業の脱炭素化に直結する水素供給源となり得る点が、日本の高温ガス炉技術の真価である。

内燃機関の開発で水素燃料にも力を入れている企業が多い日本において、大量のクリーン水素を製造できることは、水素社会の社会実装をより現実的にするものかもしれないのだ。
次なるフェーズ:HTTRから「実証炉」への展開
研究段階での実績を踏まえ、日本は現在、商用化を見据えた「実証炉」の建設計画を進行させている。この日本の実証炉は、原子炉出力200MWクラスへとスケールアップを図りながら、900℃という極めて高い出口温度を維持する設計となっている。
海外の同規模(出力200MW〜250MWクラス)の実証炉計画が750℃付近で留まっているのに対し、日本は高温化技術の優位性を保ったまま大型化に挑んでいる。安全性の実証から産業利用の確立へと移行するこのプロセスは、世界のエネルギー安全保障と環境問題の解決において、日本が主導権を握るための重要な試金石となるでしょう。
高温ガス炉の物理的な安全性(メルトダウンしにくい特性)と、小型モジュール炉(SMR)の経済性・柔軟性(工場生産や立地のしやすさ)を組み合わせるアプローチが、次世代炉の有力な選択肢として各国で研究が盛んになっています。もしかしたら、いつか高温ガス炉が商用化され、街角で高温ガス炉を見かける日が来るかもしれません!
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