今月に入ってOpenAIの動きが慌ただしい。Soraアプリの突然の終了、ChatGPTの企業向けツールへの位置づけ直し、小刻みな新モデルリリースによる話題作り、そして上場に向けた体制整備。点と点をつなぐと、一つの絵が見えてきそうだ。
「脇道に気を取られている場合ではない」
OpenAIのアプリケーション部門CEOを務めるフィジー・シモ氏が先週、社内全体会議を開いた。会議でシモ氏は「900万人のビジネスユーザーを高コンピューティングユーザーに変えることが今の機会だ」と述べ、ChatGPTを生産性ツールへ転換する方針を打ち出した。また「サイドクエスト(脇道)をすべて止めて、コーディングとビジネスユーザーに集中する」と語ったと報じられている。
SoraアプリのサービスをAPIも含めて全面終了したのは、まさにこの「脇道を止める」判断の一環だろう。計算コストが高く、しかも直接的な収益につながりにくい消費者向け動画生成サービスは、IPO前の今、優先度の低いものとして切り捨てられた形だ。
上場は今年Q4が射程に?
OpenAIのIPOは早ければ今年第4四半期に実施される可能性があると、事情を知る関係者がCNBCに明かしている。ただしタイミングは変わりうるとしている。
上場に向けた動きは具体的だ。同社は先月23日、IPO目論見書に近い形式の投資家向け文書を公表し、その中でMicrosoftへの依存を最大のリスクとして明示した。財務体制の強化も進んでおり、最高会計責任者や投資家向け広報を担う企業財務担当者の採用も進めている。
現時点でのOpenAIの企業価値は約5000億ドルとみられているが、現在進行中の資金調達が完了すれば8300億ドルに達する可能性もある。ただし同社は2030年まで黒字化を見込んでいないと明言しており、投資家がどこまでこの「先行投資」を許容するかが上場の行方を左右する。
背中を追うAnthropicの足音
OpenAIがIPOを急ぐ背景には、競合の台頭が見え隠れする。
調査機関Epoch AIの分析によれば、Anthropicの年間収益成長率は年10倍ペースで推移しており、OpenAIの3.4倍を大幅に上回る。このトレンドが続けば、2026年中にAnthropicの売上高がOpenAIを逆転する可能性がある。
年間収益の推移と逆転予測
数字にすると肌感覚がわかりやすい。Anthropicの年間収益は2024年12月時点で約10億ドルだったのが、2025年半ばに40億ドル、年末に90億ドル、そして2026年2月には140億ドルに到達した。14ヶ月で14倍という成長速度は、ソフトウェア企業の歴史でも類を見ない。
直近の企業向けAI支出シェアを見ると、10週前はOpenAIとAnthropicが50対50だった。12月初頭はOpenAIが60対40でリードしていたが、そこから急速に詰め寄られている。
OpenAI幹部の間では、Anthropicが先に上場すれば、個人投資家の需要がそちらに吸い取られるという懸念があるとも報じられている。「Anthropicに先を越されるな」という焦りが、今年のIPO前倒しを後押ししている側面は否定できないだろう。
「稼げる事業」に集中するOpenAI
消費者向けの話題性より、企業向けの安定収益へ。
この転換は、上場企業としての審判を受ける前に「見せられる数字」を作るための現実的な選択だ。
「市場は、成長への無鉄砲なアプローチを必ずしも評価しない」と、調査会社Futurum GroupのCEOは言い切る。OpenAIもその現実に向き合い始めた。動画生成、ブラウザ、デバイス——矢継ぎ早に展開してきた消費者向けの施策を絞り込み、コーディングとビジネスという稼ぎ頭に集中する。
企業向けのAI提供を強化することを匂わせる情報も次々出てきている。特に、人員の大幅増の報道などはその典型だろう。
加えてSoraの終了は、その方針転換の象徴だ。話題をさらったサービスではあったが、会社を食わせる力はなかった。IPOを目前としてOpenAIが下した判断として、これ以上に正直なメッセージはないかもしれない。
