【2026】小型モジュール炉の動向|安全な原子力発電は普及するのか?

原子力の再発明か?

原子力というワードを聞いて、脳裏に浮かぶのはあの巨大な建屋と、ずっしり重い「リスク」というイメージではないだろうか。福島の記憶が鮮明な日本では特に、「原発=危ない」というアレルギーが根強い。

だが今、そのイメージを根本からひっくり返そうとしているテクノロジーが、世界中で急速に注目を集めている。

その名も SMR(Small Modular Reactor)=小型モジュール炉

「原子力をスモールに、シンプルに、賢く」

まるでAppleのデザイン哲学みたいなコンセプトで、エネルギー業界に静かな革命を起こそうとしている。

何が新しいのか? 1分で理解するSMRの本質

まずは整理しよう。

従来の原子力発電所は、出力が100万kW(1GW)を超える巨大プラント。建設費は1基あたり数千億〜数兆円。工期は10年以上。そして何かあれば広域に影響が及ぶスケールだ。

「近づきがたく、大きくて、怖い」それが私たち日本人における原子力の印象だ。

SMRはここを根本から変える。出力は 30万kW以下(定義は各国・機関により異なる)。モジュールを製造し、現地で組み立てる「モジュール方式」の設計。建設期間は大幅に短縮でき、コストも下がる。そして設計思想そのものが「小さく安全」という方向に振り切っていることに注目したい。

ポイントをざっくり挙げると:

  • 受動的安全システム:電源が落ちても、物理法則(重力・対流)だけで冷却できる設計
  • モジュール化:工場生産で品質が安定し均質化、量産効果でコスト低減も狙える
  • 立地の自由度:大規模な冷却水インフラが不要なため、砂漠でも僻地でも設置可能
  • 段階的な拡張性:電力需要に合わせてユニットを追加できる柔軟さ

これ、もしかしてかなりすごいのでは?…という予感を覚え始めた方々、その直感は正解だ。

世界のSMR競争は「ガチ」

では実際、世界はどう動いているのか。現状を見ると、もはや「将来の技術」とは言いにくい段階にきている。

アメリカでは、NuScaleが開発したSMRがNRC(原子力規制委員会)の設計認証を取得済み。当初のユタ州向けプロジェクトはコスト問題でキャンセルになったものの、企業としての開発は継続中だ。TerraPower(ビル・ゲイツが出資していることで有名)はワイオミング州でナトリウム冷却炉の建設を進めている。

イギリスは国家戦略としてSMRを推進。Rolls-Royceが主導するコンソーシアムが設計認証の取得に向けて着々と動いている。Rolls-Royceといえばジェットエンジンのプロ。その知見を原子炉に転用するというアプローチは、なんとも説得力がある。

カナダ・フランス・韓国も独自路線で開発中。中国はすでに「玲龍一号」という商用SMRを建設中で、世界初の商業運転を狙っている。

さらに見逃せないのが AI・データセンター需要との接続だ。MicrosoftはThree Mile Island原発(かつて事故を起こしたあの施設)を再稼働させてデータセンターへの電力供給に使う契約を結んだ。GoogleやAmazonも原子力由来の電力確保に動いている。AIの爆発的な電力消費が、原子力全体の復権に強力な追い風になっているのだ。

SMRが急増するデータセンターのために多用されている航空転用ガスタービンが置き換えられる日が割とすぐ来るかもしれない。

世界初、世界最速を狙う中国

世界のSMR競争において、もっとも「現実」に近いところにいるのが中国だ。

玲龍一号

中国核工業集団公司(CNNC)が開発する ACP100、通称「玲龍一号」。これは出力12.5万kW(125MWe)の一体型加圧水型炉(PWR) だ。2010年から研究開発が始まり、2016年にはIAEAの安全審査を通過。SMR設計としては世界初の快挙だった。そして2021年7月、中国南端の海南省・昌江原子力発電所にて正式着工。世界で初めて陸上に建設されるSMRとなった。

設計の妥当性や施工技術、安全性の検証を目的とした先行モデルの建設が今行われている。

進捗はどうか。2024年には原子炉内部構造物や外側ドームの設置が進み、本年、2026年の稼働を予定している。さらに2025年4月にはメインポンプの設置が完了したと報じられており、建設は着実に最終段階へと進んでいるのは間違いなさそうだ。

玲龍一号が複数機設置され、発電所がフルスケールで完成した場合、年間発電量は10億kWhに達し、52万6,000世帯への電力供給が可能とされている。

また、用途も電気だけではない。海水淡水化や地域の冷暖房熱供給への利用も想定されており、「電気をつくる機械」を超えた多目的エネルギーインフラとして設計されている点が興味深い。離島や砂漠地帯、エネルギー多消費型の工業地帯。そういう場所にこそ刺さる設計思想だ。

SMR vs. 水力発電「もう一つのクリーン電源」との比較

ここで少し立ち止まって、SMRを水力発電と比べてみたい。どちらも脱炭素でCO2を出さない「クリーン電源」であり、ベースロード(安定して発電できる電源)として機能するという点で共通している。

だが、性格はかなり違う。

出力の安定性という点では、SMRに軍配が上がる。水力発電はダム式であれば調整が効くが、渇水の問題を除けば安定供給性に優れるとされる一方で、季節や降水量に左右される側面がある。SMRは天候も季節も関係なく、24時間365日フル稼働できる。

立地の自由度も大きな差だ。水力発電は文字通り「川のあるところ」にしか作れない。日本では適地の多くがすでに開発済みであり、大規模な新規開発は環境への影響や適地の減少により限界に近づいている。一方のSMRは、砂漠でも離島でも工業団地の隣でも、設置できる。

発電コストはどうか。既存の大規模水力発電所は建設済み資産であり運用コストが低いため非常に低廉な電源で、中規模水力のLCOE(均等化発電原価)は約10円/kWh程度とされる。新設SMRのコストはまだ実績値が乏しく、正直なところ「理論値」の段階を脱していない。コストだけを見れば、既存水力には今のところ勝てない。

環境・社会的影響については一長一短だ。水力発電のダム建設は、周辺地域の水没や住民移転、生態系への影響といった問題を伴うことがある。SMRは土地の占有面積が小さく、そうした問題は基本的に生じない。ただし、核廃棄物という別の「厄介者」が控えていることは前述の通りだ。

整理すると、こんな感じになる。

比較項目SMR(玲龍一号など)水力発電(大規模)
出力の安定性◎ 天候・季節に左右されない○ ダム式は調整可。渇水リスクあり
立地の自由度◎ 川がなくても設置可能△ 適地が限られ、新規開発は困難
発電コスト△ 実績なし、理論値段階◎ 既存炉は極めて低廉
CO2排出◎ ゼロ◎ ゼロ
環境・社会影響○ 占有面積小。廃棄物問題あり△ ダム建設による生態系・住民影響
新規開発の余地◎ 世界中で検討中△ 日本を含む先進国は適地が枯渇気味

要するに、水力発電は「すでにある優等生」であり、SMRは「これから本番を迎える新人」だ。日本のような水資源に恵まれながらも適地がほぼ開発し尽くされた国にとって、SMRは水力の「後継候補」として現実味を帯びてくる。

そして中国はその「新人」を、世界で最初に実戦投入しようとしている。玲龍一号が2026年に稼働を開始した瞬間、世界のSMR議論は「仮定」から「実証」のフェーズへと移行する。その意味は、決して小さくない。

「安全」の中身を疑ってみる

もちろん、手放しで喜ぶわけにもいかない。原子力というものの本質が変わったわけではない。

受動的安全性については、確かに技術的な説得力がある。たとえばNuScaleの設計では、冷却水が重力と自然対流だけで循環し続けるため、全電源喪失という最悪シナリオでも炉心溶融を防げるとされている。設計図上では、だ。設計上は安全なのは現行の原子炉とさほど変わらない。

問題は 核廃棄物。SMRは小さくなっても、使用済み核燃料の問題は消えない。むしろ従来炉と比べて単位出力あたりの廃棄物量が多くなる設計もあると指摘されており、この点は正直まだ課題が多い。

拡散の問題もある。SMRが世界中に普及すれば、核物質の管理・拡散リスクも複雑になる。小型で分散した炉が世界中に設置されるというシナリオは、セキュリティの観点からすると悪夢の芽も含んでいる。

それから、コスト問題。「量産でコストが下がる」という触れ込みはまだ「理論値」の域を出ていない。NuScaleのプロジェクト中止は、楽観的なコスト予測が現実に叩き潰された典型例だ。再生可能エネルギー(太陽光・風力)の価格が急落している中、SMRが経済合理性を確立できるかどうかは、まだ正直わからない。

技術は面白い。でも「面白い」と「使える」の間には、いつだって険しい山があるのだ。

日本はどこにいるのか

ここで日本に目を向けると、少々複雑な気持ちになる。

2023年、GX(グリーントランスフォーメーション)推進法のもとで、日本政府は次世代原子炉の開発・建設を政策として明記した。三菱重工やJAEAもSMR関連の研究を進めている。方向としては「やる」という意志を示してはいる。

ただ、率直に言ってスピード感は世界に比べて遅い。規制整備、地元合意、廃炉問題の未解決——これらが複合的に絡み合い、民間企業が大胆に動きにくい構造になっている。日本が持つ原子力の技術基盤と人材は、本来は世界トップクラスのはず。なのにそのポテンシャルが十全に活かされていない、というのは、テクノロジー好きとして純粋にもったいないと思う。

筆者の見立て

SMRは、原子力の「バージョン2.0」だ。すごい進歩だが、夢のエネルギーだと再びもてはやされるというわけではない。旧来の課題を直視した上で、設計思想から作り直そうという試みとして、技術的には評価に値する。

エネルギーの脱炭素化、AIによる電力需要の爆増、地政学的リスクによるエネルギー安全保障の重要性。これらが重なる2020年代において、SMRが「選択肢に入ってきた」という事実は、もはや否定できない。

SMRは設置されるのであれば、電気消費地の近くが効率的という観点から、安全性が非常に重視される。将来的に普及するのは高温ガス炉を使用したSMRなのではないかと筆者は考えている。

廃棄物処理の解決策が見えていない、コスト実績がまだ存在しない、規制・社会的受容という非技術的な壁も厚い。これらが揃って初めて、SMRは「普及する」と言える。

それでも。いや、だからこそ、この技術の動向から目が離せない。核融合炉が「あと30年で実現する技術」と言われ続けて70年が経つのとは違い、SMRはすでに建設が始まっている。夢想ではなく、現実のプロジェクトとして動いている。

その最初の商業炉が稼働する日、世界のエネルギー地図は確実に塗り変わるだろう。

その瞬間を、ちゃんと見届けたい。

カテゴリ: テクノロジー・先端科学
この記事を書いた人

Seita Namba

イグナイトbiz 編集長