「いま利上げはアホやとおもう」——2024年9月の自民党総裁選、高市早苗氏はそう言い放った。あれから約一年半。初の女性首相となった彼女は今週、継続して利上げをしているその「アホ」な組織の意思決定機関に、自らが選んだ2人を送り込もうとしている。
日銀政策委員会の審議委員人事。9人の多数決で日本の金利を決める、この「密室」に、高市政権は今、手を伸ばしている。
⚠️2026年2月25日正午ごろ、政府の日銀人事提案が公表。リフレ派が2人送り込まれる構図。
官邸と日銀の間で起きていること
2026年2月16日、東京・永田町の首相官邸。高市早苗首相は植田和男・日銀総裁と2回目の会談を行った。会談後、両者はそろって「一般的な経済・金融の意見交換」「具体的な内容については言えない」と、ほぼ同じ言葉で記者団を煙に巻いた。
発言の内容ではなく、「口裏を合わせた」ように見えるその構図が、かえって市場関係者の想像力をかき立てた。荒立つことが無く終わったことは、政権からの現状の日銀への信任とも見え、マーケットはすこし落ち着きを得た。
この会談で話し合われた「言えないこと」の一つとして、日銀の審議委員人事の可能性が指摘されている。
「最後のリフレ派」の退場
高市早苗政権の下で初となる日銀関連の人事が来週に迫っている。積極的な金融緩和などを主張するリフレ派を新たな審議委員に起用するかが焦点で、人選は今後の金融政策の行方を占う「リトマス紙」の役割を果たしそうだ。
政府は25日にも人事案を国会に提示し、3月31日に任期が切れる野口旭委員と、任期が6月29日までの中川順子委員の後任候補をまとめて示す見通しだ。男女比は変えず、男性と女性が1人ずつになると考えられる。

退任する野口旭氏は専修大学教授で、金融緩和積極派=「リフレ派」の代表的論客だ。アベノミクスの理論的支柱として知られ、日銀がゼロ金利・マイナス金利政策を敷いていた時代、その政策を最も強く支持し続けた委員の一人だった。彼の退任は単なる人事交代ではない。2月には小枝淳子氏が任命されることでリフレ派は野口旭氏一人となっており、今回の交代でリフレ派は政策委員会から完全に姿を消す可能性がある。
「サナエノミクス」と日銀——矛盾する2つのベクトル

高市首相の経済政策は「サナエノミクス」と呼ばれる。アベノミクスの継承を標榜しつつ、日銀の利上げを容認しつつ、「責任ある積極財政」で国家が支援する成長投資を推進するというのが基本構想だ。
だがここに根本的な矛盾がある。金融常識に照らし合わせて考えると、積極財政は物価上昇圧力を高め、日銀の利上げを促す。利上げが進めば、国債の利払い費が膨張し、財政運営はさらに厳しくなる。
就任直後、高市首相は「財政政策と同様に金融政策の方針も政府が決める」と踏み込んだ発言を行い、市場を揺るがした。しかしその後、高市首相の利上げけん制姿勢が円安と物価高を助長したことや、トランプ政権からも円安を助長する姿勢を諫める発言がされたことなどを受けて、金融政策に関与する姿勢を修正していった。
2月18日の第2次高市内閣発足後の記者会見では、「コストプッシュではなく賃金上昇を伴った2%の物価安定目標の持続的・安定的な実現に向けて適切な金融政策を行うことを期待する」という、従来の政府の公式見解をなぞる発言をするようになった。表向きの強硬姿勢は影を潜めた格好だが、局所局所で日本銀行の利上げに難色を示すことは今後も考えられ、それが利上げの時期を遅らせる可能性がある。
人事の「読み方」、誰が来るか、何が変わるか

今回の2つのポストは、性質がまったく異なる。
野口氏の後任(男性): アベノミクスを継承し、金融緩和を重視する高市政権が発足したことで、野口氏の後任は再びリフレ派となる可能性が高い。その結果、政策委員会の金融政策決定には中立的となるだろう。つまり、いまの利上げ路線には큰きな影響を与えないというのが多くのエコノミストの見立てだ。
中川氏の後任(女性): 中川氏は金融政策姿勢では中立的と考えられる。証券会社出身でなくても金融界あるいは産業界出身の女性が指名されるだろう。リフレ派の女性は少ないことから、金融政策には比較的中立的な女性が指名されると見られる。
結論として多くの専門家、専門誌は「今回の人事が金融政策を劇的に変えることはないだろう」と予測している。審議委員は衆議院・参議院の同意を経て内閣が任命する国会同意人事であり、任期は5年だ。一度任命されれば、政権の意向だけで動かすことはできない。
水面下の「諮問会議」工作
直接的な人事以外でも、高市政権は日銀に対して静かに圧力をかける構造を整えている。首相は経済財政諮問会議の民間議員に、財政拡張や金融緩和を重視する識者を任命した。新設した日本成長戦略会議のメンバーにも、同様の考えを持つエコノミストを入れており、その一部からは日銀の早期利上げに慎重さを求める発言も出ている。
審議委員の多数決では日銀の独立性は守られる。しかし、諮問会議や政策会議を通じた「空気圧力」は、植田総裁の判断のタイミングやトーンに、じわじわと影響を及ぼしていく可能性がある。
現在の政策金利と日銀のスタンス
日銀は2025年12月、政策金利を0.75%へ引き上げた。1995年以来、30年ぶりの水準だ。日銀利上げ路線のヤマ場となる2026年、食料品高の一服と賃上げ継続で実質賃金はプラスに転じるか、円安は止まるのか、高市政権との協調は整うのか、多くの焦点がある。
田村直樹審議委員は今月の講演で「物価安定目標、今春に実現も」と述べ、追加利上げへの意欲を示した。一方で実質GDPは直近(2025年10〜12月期)で年率0.2%増にとどまり、力強さを欠く。利上げ継続か、様子見か。その判断に、今回の人事で選ばれた2人も、いずれ一票を投じることになる。
まとめ:高市政権の人事が動かす10年
高市政権の日銀人事は、派手な政治劇にはならないかもしれない。識者の多くが「影響は軽微」と予測する通り、委員2人の交代で金融政策が劇的に転換する可能性は低い。
だが、5年任期の審議委員は、政権が変わっても職にとどまる。今日選ばれた2人は、2031年まで、どの政権のもとでも、日本の金利を決め続ける。
高市首相が今週、国会に提示する2つの名前。それは、単なる人事ではなく、日本の金融政策の「次の10年」の方針が示される行事なのだ。
【社説】
アベノミクスは長期的にみると膠着した日本の金融市場をほぐした一方、効果は疑問符が付くと考えている筆者にとって、今回の動向には非常に注目している。
民衆が政治に経済政策を求め、インターネットで分かりやすい言説を好んだ結果、リフレ派御用学者を信奉する。不甲斐ないことに、ほとんどの党が人気にあやかり公約で減税を掲げた。
そして今、不確かな言説をもとにした投票行動により、政界における過剰な減税圧力が形成されている。また、コロナ不況以降加速した世界的な財政出動が続き、世界的にも債権離れが進んでいる。いま日本は重要な時期にあるというのはどの方にも同意していただけるだろう。
生活苦が減税で解決されるのであれば、失われた30年は存在しなかっただろう。すでに積極財政だったという事実から目をそらしてはいけないと考える。積極財政はレッテル張りに使うために”政治的”に作られたワードである。
短期的な目先の貧困と未来において民衆の生活苦を解決したいのであれば、長期的に見ると賃上げ・投資条件付き企業の税率変動、食料品減税および他品目の消費増税だろうと筆者は個人的に考えている。
堅実な中間層保護と、成長戦略が求められている時だろう。
