アメリカではデータセンターのために航空転用ガスタービンを使っている【米中AI競争の最前線】

アメリカにおけるある定説をご存じでしょうか…?

「アメリカは電力不足によってAI戦争に負ける」

これはAI業界でもまことしやかに語られる「定説」となっています。これは、『アメリカは電力インフラの構築が絶望的に下手だ。一方で中国はその点において優れている。電力こそがAIの燃料である以上、この競争は中国が勝つ』という予測に基づいています。

NVIDIAのジェンスン・フアン CEOでさえ、同様の懸念を示しました。しかし、その懸念は間違いかもしれないのです。

電力のボトルネックは悲観するほどではないかもしれない。

実は、過去40年間、アメリカの総電力供給量は単調な増加でした。発電所の新規増設は、世界の国々を見渡しても最少の部類に入ります。ですがそれは供給能力に余裕があったため、無理に増やすインセンティブが働かなかっただけなのです。BTCのマイニングブーム、環境保護政策等々の世の中の変化があっても、過去20年間、実質電力価格はほぼ一定でした。

AIという電力を大量に消費する存在が現れたからこそ、状況は一変しているのです。

Source: Situational Awareness

しかし、AI関連企業は一般人とは違い、巨大な資本力から、発電所の不足問題も自力で解決できてしまうということを忘れてはいけません。

オフグリッド戦略

最大の障壁は、送電網(グリッド)への接続待ちです。ならば、繋がなければいいのです。

ゴリ押しでデータセンターを建設しているAI企業は、近隣で採れる天然ガスを活用したガスタービンによる火力発電という手段を取ります。実はGE VernovaやSiemensなどの主要メーカーは、ガスタービンの生産能力を増強しています。2030年までに見込まれる増産分だけで200GWを超えます。

「環境に悪い」「コストが高い」という外野の声は、AI競争の最前線では意味を成しません。OpenAIやMetaなどのハイパースケーラーは、建設期間の短い航空転用型ガスタービンを選び、イーロン・マスクのxAIに至っては、許可が下りる前からタービンを設置するほどの「荒業」で電力を確保しています。

航空転用ガスタービンはモジュラー設計されているため、スケーラブルで比較的安価なのです。

太陽光発電も十分に強力です。アメリカは土地柄、日照に非常に恵まれた土地がたくさんあります。天然ガスも、日照もアメリカだからこそ持ちえた武器なのです。日本からしてみれば、これほどうらやましいことはありません。

送電網に接続しない「オフグリッド」型データセンターなら、煩雑な許可待ちの数年をスキップできます。昼間は太陽光、夜はバッテリーやガスで補う。このハイブリッド方式で、数ギガワット級の電力を迅速に確保する動きが始まっています。

送電の最適化もかなり進んでいる

どこの国も電力供給網はピーク需要に合わせて設計されています。逆に言えば、それ以外の時間は電力が余っているのです。

データセンターが「電力需給が逼迫した時は使用量を落とす」と約束すれば、電力会社は既存の設備のままで巨大な電力を供給できます。Googleなどは既にこの契約を結び始めています。ほんの少しの稼働調整と最適化で、原子力発電所数十基分もの予備電力をお得に確保しているわけです。

米中の差はあるのか?

AIという強烈なプレッシャーがかかった今、アメリカはなりふり構わぬ手段で電力を確保し始めています。確かに、中国の安価な電力供給網は脅威です。

ですが、アメリカが金融において世界から投資を集め続ける限り、電力費用は誤差レベルとみなされると考えられます。オフグリッド、天然ガス、デマンドレスポンス。これらを組み合わせれば、2030年までの電力需要は十分に賄えます。

AIチップの獲得能力も世界トップレベルです。アメリカの優位は簡単には崩れないと思った方がよさそうです。

カテゴリ: ビジネス
この記事を書いた人

Seita Namba

イグナイトbiz 編集長