世界最大級のコンテナ船は「日本製」。なのに、日本の港にはほとんど来ない 日本経済のボトルネック

2023年から2024年にかけて、広島・呉と愛媛・今治の造船所で、世界トップクラスの大きさを持つコンテナ船が次々と完成した。海運大手3社が共同出資する「ONE(オーシャン ネットワーク エクスプレス)」が発注した、1隻あたり24,000TEU超を積める巨大船のシリーズだ。

TEUというのは、20フィートコンテナ1個分の量を表す単位。24,000TEUといえば、全長約400メートル、コンテナを積んだ姿はそのまま海に浮かぶビルのような船になる。

大型コンテナ船イメージ

ところがこのシリーズ、日本生まれなのに日本の港にはほぼ寄らない。主にアジアとヨーロッパを結ぶ航路に投入され、シンガポールなどには立ち寄るが、横浜・東京・神戸の名前は航路図にまず出てこない。

日本で作った世界最大級の船が、日本に帰ってこない」。この一文に、日本の港湾が置かれている状況はかなり凝縮されている。

なぜ「入れない」のか? 水深という壁がある

理由をシンプルに言うと、大きすぎて入れない。入れる港がない。

24,000TEU級の船は、満載になると喫水(船体が水面より下に沈み込む深さ)が16メートルを超える。これを安全に着岸させるには、岸壁側にもそれ以上の水深が必要で、目安は18メートルになる。

ところが日本国内で水深18メートルの岸壁を持つのは、横浜港・南本牧ふ頭のMC-3とMC-4の2バース、合計900メートルのみ(2025年時点)。これが現状の「国内最大」で、しかも整備が完了したのは最近の話だ。MC-3は2015年、MC-4も2020年に暫定的に使えるようになったばかりである。

ちなみに、世界最大級のコンテナ船のひとつ「MSC ARINA」(23,656TEU、最大喫水16.4メートル)は、2025年2月からこの南本牧ふ頭に定期的に寄港するようになった。寧波、上海、シンガポール、ロッテルダム、ハンブルクといった名前が並ぶ航路図のなかに、横浜が入っている。これは数少ない「うまくいっている例」と言える。

世界の港はどこまで先を行っているか

横浜港のコンテナ取扱量は国内2位、年間308万TEU(2024年)。これ自体は小さい数字ではない。問題は、世界のスケール感とのギャップだ。

TEUベースのスケール比較

韓国・釜山港は、世界のコンテナ取扱量で第7位(2023年基準)。さらに釜山新港では、53バース・年間3,500万TEUを処理できる体制を2037年完成目標で整備中だ。

シンガポールは「トゥアス港」という新しい港を建設中で、2040年代には年間6,500万TEUを処理できる、世界最大規模の完全自動化コンテナ港になる予定。現在のシンガポール港全体の取扱量の1.8倍にあたる規模だ。

中国・上海港も、洋山深水港の北側に新しい埠頭を建設中で、完成すれば年間1,160万TEU分の取扱能力が追加される見込みである。

一方、日本最大の港である東京港のコンテナ取扱量は約457万TEU(2023年)。それでも世界ランキングでは46位にとどまる。1980年には、神戸港が世界4位、東京港が18位だったことを考えると、45年でのこの落差は小さくない。

問題は積み替えのコストだけじゃない

寄港する基幹航路(北米・欧州を結ぶ大型船の定期航路)が減ると、何が起きるのか。

国土交通省の調査によれば、日本発着の長距離貨物のうち約135万TEUが、海外の港で一度積み替え(トランシップ)されている。その多くは釜山港経由だ。

積み替えがあれば、その分だけ輸送に時間がかかる。コロナ禍で世界の物流が混雑していた時期には、釜山経由かどうかで輸送日数の差が最大50日に達したというデータもある。輸入品の価格や、店頭に商品が並ぶタイミングにも、こうした港の事情は影響してくる。日本がコントロールできない部分が多くなってしまっているのだ。

国土交通省はこうした状況を「海上物流の有事」と表現している。

日本も動いてはいる

日本も手をこまねいているわけではない。2010年から「国際コンテナ戦略港湾」という政策が始まり、東京湾エリア(京浜港=東京・川崎・横浜)と大阪湾エリア(阪神港=大阪・神戸)に投資を集中させる方針が取られている。

日本の主要港、長距離航路の週間便数(2025年7月時点) ※長距離航路=欧州・北米・中南米・アフリカ・豪州を結ぶ国際コンテナ航路のこと

その結果、地方の港から京浜港・阪神港へ貨物を集める国内フィーダー航路(小型船による中継輸送)の便数は、京浜港で週39便(2016年)から週59便(2024年)に、阪神港で週68便から週88.5便に増えた。

そして本命の水深18メートル岸壁。横浜港南本牧ふ頭のMC-3・MC-4に続き、隣接する新本牧ふ頭でも水深18メートル・全長1,000メートルの新しいバースを整備中だ。22,000TEU級の船に対応する設計で、自重2,000トン級という巨大なガントリークレーン(コンテナを吊り上げる橋形クレーン)も設置される。当初は2025年度完成予定だったが、コロナ禍の影響で工事が遅れ、完成は2030年度にずれ込んだ。

2025年12月にまとまった事業評価資料では、この投資の効果はB/C比4.7(投資した1円に対して4.7円分の効果がある、という計算)とされている。効果の中身でもっとも大きいのは「海外トランシップ回避による輸送コスト削減」で8,069億円分。国自身が、釜山などへの積み替えコストの大きさを前提にして、この事業の意義を丁寧に説明しているわけだ。

依然、スケールの差は大きい

ここまで読むと、「日本もちゃんとやっている」という話に見えるかもしれない。実際そうだ。ただ、規模で比べると話が変わってくる。

横浜港が20年近くかけて整備したのは、水深18メートルの岸壁2本・合計900メートル。新本牧の1,000メートルが加わっても、完成は早くて2030年代前半。対する釜山新港は2037年に53バース体制、シンガポールのトゥアス港は2040年代に年間6,500万TEU・完全自動化を目指している。

アメリカや中国でも港湾設備の完全自動化への取り組みが続々と出てきている。アメリカでは既に完全自動の積み下ろしの社会実装が始まっている。取扱量が多く、規模が大きい港ほど積極的な投資がやりやすく、得られる恩恵も大きいだろう。

勝負する土俵のサイズがそもそも違う、というのが正直な感想だ。

24,000TEU級の巨大コンテナ船を、半年というスピードで6隻も作り上げる技術力は、日本にある。今治造船とジャパンマリンユナイテッドが組んだこのプロジェクトは、造船業界の賞も受けた実績がある。しかし、そこで作られた船が日本の港にほとんど来ない、という現実は、「ものを作る力」と「港を使いこなす仕組み」がまったく別の話だということを、わかりやすく教えてくれるだろう。

カテゴリ: ビジネス
この記事を書いた人
Seita Namba
イグナイトbiz 編集長 @ PopLink

大阪大学在学中。Web制作・開発集団「PopLink」のメンバー。テクノロジー動向やAI×ビジネス、国際情勢などに関心があり、開発者・ユーザー双方の視点から客観的な情報発信を心がけています。

現在は「イグナイトbiz」の更新と、サイトのWordPressテーマ保守を担当しています。活動の一環として、個人やチームでいくつかのWebサービス・ソフトウェアの個人開発・運営に携わっています。

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