もはや別会社のオラクル。事業転換と「外から見えない収益構造」

「データベースのオラクル」あるいは「Sun Microsystemsを買収しハードウェアとソフトウェアを独占した巨人」。もしオラクルに対してそのような認識を持っているとすれば、それはすでに過去のものである。2026年現在、オラクルは主軸事業を根本から転換させ、世界有数のクラウドおよびAIインフラストラクチャ企業へと変貌を遂げている。…いや、実のところそれすらもオラクルの今を正確に表したものではない。オラクルが動かす巨額のマネーは異質な大きさだ。オラクルが現在どのような事業を展開し、なぜその実態が一般に分かりにくくなっているのだろうか。

巨額マネーを巧みに操る「フィクサー」ラリー・エリソン

現在のオラクルの異質な意思決定と巨額の資本投下を理解する上で、不可欠な人物が存在する。共同創業者であり、現在も取締役会長兼CTO(最高技術責任者)として実権を握るラリー・エリソン(Larry Ellison)である。

彼は単なる一企業の創業者という枠を超え、アメリカのテクノロジー業界や経済界においてフィクサーとも呼べる絶大な影響力を保持している。2025年秋にはAIブームによるオラクル株の高騰で一時的にイーロン・マスクを抜き、純資産額が4000億ドル(約60兆円)に迫り世界一の富豪となった。

エリソンは、イーロン・マスク(xAI)やサム・アルトマン(OpenAI)など、現在のAI業界を牽引するキーパーソンたちと対立することなく強固な個人的・ビジネス的ネットワークを築き上げている。現在のオラクルが展開する大胆な事業転換と、それに伴う数兆円規模のマネーの動きは、強固なトップダウン体制を敷くエリソン個人の意思決定そのものである。

Sun買収時の「74億ドル」が小さく見える異次元の資本投下

2010年、オラクルは約74億ドルでSun Microsystemsを買収した。当時は「データベース」と「ハードウェア」の垂直統合による顧客の囲い込みを狙った戦略であったが、2026年現在、オラクルが投下している資本の規模と対象は全く異なる。

現在の投資先は、生成AIの学習・推論を支える超巨大なデータセンター群(クラウドインフラ)である。膨大なGPUを稼働させるインフラ需要を総取りすべく、オラクルは2026会計年度の資本支出(CapEx)として約500億ドル(約7.5兆円)規模という、Sun買収時とは文字通り「桁違い」の金額を計画している。かつての事業規模とはゼロが一つ違うレベルのマネーが動いているのが、現在のオラクルの実態である。

オラクル AIインフラ投資とエリソン氏純資産の相関 生成AIブームを背景とした巨額の資本支出(CapEx)計画が、
創業者ラリー・エリソン氏の保有資産を異次元の規模へ押し上げる構造
① オラクル 資本支出 (CapEx)
$6.7B
FY2024
$21.2B
FY2025
$50B
FY2026(予)
投資への期待が
株価を急騰させる
② エリソン氏 純資産
$102B
2023年
$197B
2025年1月
$393B
2025年9月
① オラクル 資本支出 (CapEx)
FY2024$6.7B
FY2025$21.2B
FY2026(予)$50B
▼ 投資期待が株価を牽引 ▼
② エリソン氏 純資産
2023年$102B
2025年1月$197B
2025年9月$393B

直感的にもわかる通り、有意な相関がある。ここまでの実績として金を出せば出すほどラリーは豊かになっている。どれだけ”正しい”投資をしてきたのかがわかるグラフだろう。

2026年現在の主力事業:世界最高峰のAIコンピューティング基盤

事業の中身も完全にシフトした。2026年のオラクルの主力事業は、全社売上の過半数を占めるクラウドサービス(OCIおよびSaaS)である。

特にクラウドインフラストラクチャ(OCI)の成長は著しく、前述したイーロン・マスクの「xAI」や「OpenAI」といった企業が、自社の巨大なAIモデルをトレーニングするための物理基盤としてオラクルのデータセンターを選択している。現在のオラクルは、旧来のオンプレミス向けソフトウェア企業から、AI開発を物理的レイヤーで支えるメガクラウドプロバイダーへと完全に姿を変えている。

なぜ現在のオラクルの事業は「わかりにくい」のか?

数兆円規模のインフラ投資を行い、最先端のAI市場を裏で牽引しているにもかかわらず、一般にその事業実態が分かりにくい理由は主に2つ存在する。

理由1:BtoBの「黒衣(くろこ)」に徹していること

AppleやGoogleのように、消費者向けのデバイスやサービスを提供していない。オラクルが提供しているのは、高度なAIサービスが稼働するための「GPUクラスター」や「データセンターの電力・ネットワーク」という深層の物理基盤であるため、社会的な存在感と実際の事業規模に乖離が生じている。

理由2:「マルチクラウド戦略」による境界線の喪失

かつてのオラクルは自社製品による徹底的な囲い込みを行っていたが、現在は競合であるAWS、Microsoft Azure、Google Cloudのデータセンター内に直接Oracleのシステムを配置する協業体制をとっている(Oracle Database@Azureなど)。他社のクラウドの「中」にオラクルの基盤が入り込んでいるため、どこまでがオラクルの事業領域なのかが物理的にもサービス的にも見えなくなっている。

巨額収益の裏で囁かれる循環取引の噂

オラクルのクラウド事業(OCI)が前年同期比84%増という驚異的な成長を遂げ、実際に巨額の利益を計上していることは事実である。しかし、2025年後半から2026年にかけて、AI市場全体を巻き込む形で不透明な「循環取引(ラウンドトリップ)」による売上計上を懸念する声が金融市場やIT業界の一部で高まっている。

この噂の背景にあるのは、少数の巨大テック企業とAIスタートアップ間で展開される「資金の還流構造」である。市場のアナリストらからは、具体的に以下のようなサイクルが指摘されている。

  1. 巨大テック(NVIDIAなど)がAIスタートアップ(OpenAIやxAIなど)に巨額の資金提供や出資を行う。
  2. AIスタートアップは、その調達資金を使ってオラクルから大規模なクラウドインフラ(計算資源)を購入・契約する。
  3. オラクルは、そのクラウド収益を元手にNVIDIAから次世代のAI向けGPUを大量に購入する。

この限られたエコシステム内で巨額の資金が循環することで、オラクルの帳簿上では「クラウド売上の急増」として記録され、将来の収益見通しの指標となる「残存履行義務(RPO)」も劇的に膨れ上がっていく。

当事者である企業側は、これらを「AIデータセンターという実需に基づく適法かつ戦略的な提携である」と位置づけている。しかし、一部の投資家からは、過去のドットコムバブル期に見られた実質的な外部収益を伴わない売上の水増しに近い構造ではないかという厳しい見方もなされている。

もし、一般消費者や企業からのAIサービスに対する「真の需要(マネタイズ)」が投資額に追いつかず、AIスタートアップの資金繰りが悪化した場合、約束された将来の巨大なクラウド利用料が支払われず焦げ付くリスクを内包している。オラクルの現在の圧倒的な財務成長は、この「AI投資の循環エコシステム」が破綻せずに回り続けることを前提に成立している点に留意が必要である。

Capital Flow · AI Industry AI業界における資金の循環エコシステム 巨大テック企業から提供された資金が、クラウドインフラ契約を経て、
再びAI半導体の購入へと還流する「ラウンドトリップ」の構造
Infrastructure Oracle 巨大AIデータセンター
クラウド基盤の提供
クラウド利用料 長期インフラ契約
巨額の支払い
ROUND
TRIP
GPU大量購入 AI向け半導体
NVIDIAへ還流
Model Builders AIスタートアップ OpenAI · xAI など
AIモデルの学習・推論
資金提供 / GPU優先供給 出資 + 半導体の
優先アクセス
Chip Monopoly NVIDIA AI半導体市場の支配
スタートアップへの出資
STEP 01 NVIDIAが出資 OpenAI等のAIスタートアップへ資金提供とGPU優先供給を行う
STEP 02 クラウド契約 資金を得たスタートアップがOracleのクラウドと巨額の長期契約を締結
STEP 03 GPU大量調達 OracleがAIインフラ用にNVIDIA製GPUを大量購入し資金が還流
↺ LOOP ラウンドトリップ 資金が三社間を循環し、エコシステムが相互に強化され続ける
Chip Monopoly NVIDIA AI半導体の提供・スタートアップへの出資
▼ 資金提供 / GPU優先供給
Model Builders AIスタートアップ OpenAI等 — 巨額の資金でAIモデルを学習
▼ クラウド利用料 / 長期インフラ契約
Infrastructure Oracle AIデータセンター基盤を提供
↑ NVIDIAからGPUを大量購入(資金の還流)↑

株価を維持・牽引する「巨額の受注残(RPO)」の存在

前述したような循環取引の懸念や構造的リスクが一部で囁かれる中であっても、オラクルの株価が高値圏で強力に維持されている最大の要因は、将来の売上を担保する「受注残(RPO:残存履行義務)」の異常なまでの積み上がりにある。

RPOとは、顧客と契約済みであるものの、まだサービス提供(インフラの稼働など)が完了していないため、現時点では売上として計上されていない「将来の確定収益」を指す。オラクルの2026年度第3四半期におけるRPOは約5,530億ドル(約83兆円)という天文学的な数字に達しており、これは同社の現在の年間売上高の数倍に相当する規模である。

株式市場の投資家や機関投資家は、足元の四半期ごとの売上実績以上に、この「将来約束されたキャッシュフローの巨大さ」を高く評価している。仮に一時的な景気後退や一部のAIスタートアップの資金繰り悪化が起きたとしても、この巨額のRPOが財務上のクッションとなり、長期間にわたって安定した収益がもたらされるという下値支持線(セーフティネット)として機能しているのである。

つまり、現在のオラクルの株価は「今現在稼ぎ出している利益」だけではなく、「将来数年間にわたってAIクラウドインフラを提供し続けることで確定している、巨額の未実現利益」によって理論づけられ、維持されているのが実態である。

現在も巨大化中

現在のオラクルは、Sun Microsystems買収時の「データベースとサーバーの会社」という枠組みには到底収まらない。アメリカ経済のフィクサーとも言えるラリー・エリソンのトップダウンの下、年間数兆円規模の異次元のマネーをデータセンターに投下し、世界のAI開発を物理的レイヤーで支配するAIインフラストラクチャの巨人である。

外側から事業が見えにくくなっているのは、同社が世界のIT産業の最も深く、かつ最も巨大な資本が動く「基盤そのもの」へと成り代わったからに他ならない。

カテゴリ: ビジネス
この記事を書いた人
Seita Namba
イグナイトbiz 編集長