トヨタEVが米国市場で急伸中 EV市場の現状と日本企業の立ち位置を分析する

「EVに消極的」と揶揄され続けてきたトヨタが、テスラを除く米国EV市場でトップに立った。しかも、EV市場全体が縮んでいる最中に。これは単なるモデルチェンジの成功と言うよりは、トヨタの底力が現れていると言えそうだ。「なぜ急進できたのか?」その謎を解き明かしてみよう。

テスラ以外のトップは僅差

トヨタのbZシリーズは2026年第1四半期に10,029台を販売し、前年同期比78.8%増を記録した。わずか1年前、このモデルはトップ10にも入っていなかった。急伸と言えるだろう。

昨年の非テスラトップだったシボレー・エクイノックスEVは9,589台にとどまり、ヒョンデのIONIQ 5は9,790台と14%増ながら及ばなかった。

テスラは依然として別格だ。テスラは米国市場の個別台数を公表していないが、推計によるとModel YとModel 3合わせて12万台超を販売したとみられる。

テスラ以外のEVは僅差という状況にある。販売台数を以下の表にわかりやすくまとめた。

・2026年Q1 米国EV販売ランキング表(推定含む)

順位車種メーカー販売台数
1Model Yテスラ約82,000台※
2Model 3テスラ約35,000台※
3bZトヨタ10,029台
4IONIQ 5ヒョンデ9,790台
5Equinox EVシボレー(GM)9,589台
6Lyriqキャデラック(GM)約8,000台※
7Blazer EVシボレー(GM)約7,000台※
8Mustang Mach-Eフォード4,600台
9RZレクサス4,456台
10F-150 Lightningフォード約2,200台※
※テスラおよびGM、フォードの一部は推計値、イグナイトbiz編集部が生産台数および輸出入の統計と調査機関のプレスリリースをもとに推計。

何がbZを変えたのか

そもそもトヨタのEV史は、順風満帆とは言いがたかった。初代「bZ4X」は2022年の発売直後、走行中にホイールが脱落する恐れがあるとしてリコールを余儀なくされ、一時販売を停止した。再開後もハイブリッド車が堅調に売れ続ける一方、bZ4Xの米国販売は伸び悩んだ。

「やっぱりトヨタのEVは本気じゃない。一応やってるだけ」そういう見方が業界内外に広がっていたのは事実だ。

その汚名を返上すべく投入した2026年モデルでは、価格を2,000ドル以上引き下げて36,350ドルとし、航続距離は252マイルから314マイルへと大幅に延ばした。車名からも「4X」を取り払い、「bZ」としてあらためて市場に出直した形だ。

さらにテスラのスーパーチャージャー網で充電できるNACS規格の充電ポートを標準搭載し、充電速度も10〜80%を約30分でこなせるよう改善されている。

数字だけ見れば十分な改善だが、見方を変えると別のことも言える。航続314マイル、充電30分、価格3万6千ドル台。これは競合他社がすでに2〜3年前に実現していたスペックだ。トヨタはようやく「土俵に上がった」段階にすぎないとも言える。それでもこれほど売れたのは、性能ではなくブランドへの信頼が動かした結果だろう。

なおワンペダルドライブ機能は非搭載で、ルートプランナーも欠如している点は、コアEVユーザーから引き続き指摘されている。

ブランド力という見えない資産

コックス・オートモーティブの調査によると、「次に電気自動車を買うとしたらどのブランドか」という問いに対し、アメリカ人が最も多く挙げたのはトヨタだった。EVで先行するブランドを差し置いての結果だ。

この信頼の背景には、全米に張り巡らされた販売網もある。トヨタは現在、米国51の州と準州に1,245店のディーラーを持つ。シボレーの約2,867店、フォードの約2,825店と比べると数は少ないが、それでも主要都市から地方まで購入・整備の拠点が整っている。「EVは充電インフラが心配」という層にとって、近くに実店舗があるという安心感は小さくない。テスラがオンライン販売を主軸に置き、サービスセンターの数で課題を抱えるのとは対照的だ。

長年にわたり「壊れない車」として積み上げてきた評判が、EVという新しい土俵でもそのまま機能している。これはトヨタ固有の強みであり、ヒョンデやGMも良い車を作るが、同じ土俵で同じ戦い方をしても簡単には覆せないものだ。逆に言えば、この「信頼貯金」がある今のうちに製品力を本物にしておかないと、一度失った信用は取り戻しにくい。

レクサスも急回復

トヨタグループ全体で見ると、状況はさらに鮮明だ。

レクサスの電動SUV「RZ」は前年比206%増の4,456台を記録した。一方のフォードは第1四半期のEV販売合計が6,860台で前年同期比70%減。Mustang Mach-Eが4,600台(前年比60%減)、F-150 Lightningが2,060台(同71%減)と大きく落ち込んだ。

トヨタとフォードの明暗は、EV戦略における「継続」と「撤退」の差がそのまま出た形だ。市場が逆風のときに退いたブランドは、回復局面でラインナップが空白になる。フォードはその典型になりつつある。

しかし、フォードにトヨタのような全方位戦略が出来る体力があるかと言われれば、無いだろう。仕方ないという感想しかない。

全体市場は縮小している

ただし、トヨタの好調を額面通りに受け取るだけでは全体像を見誤る。

コックス・オートモーティブの推計では、2026年第1四半期の米国EV販売台数は約21万3,000台と、前年同期の約30万台から28%減少した。EVの市場シェアは約5.8%で、前年から約2ポイント低下している。連邦税控除の廃止や環境規制の緩和を受け、複数の自動車メーカーがEVシフトを減速・撤退させている。直近のホンダの北米市場における巨額減損は記憶に新しい。

縮む市場でシェアを取れたことは評価できる。ただ、「縮む市場のトップ」という事実は切り離して考える必要がある。EVの普及そのものが失速している局面で、トヨタの勝利をEVシフトの成功とイコールで語るのは早計だ。

今後の布石

トヨタは2027年までに米国で7モデルの完全電動車を展開する計画で、国内製造の新型SUVも含まれる。現在のbZ、bZウッドランド、C-HR、レクサスRZに加え、レクサスESの電動版が今月中に登場し、電動ハイランダーが2026年末に続く見通しだ。

また、bZは今四半期初めてプリウスの販売台数(9,737台)を上回った。ハイブリッドの象徴を自社EVが超えたというのは、数字以上の意味を持つ転換点だろう。

気になるのは、現行ラインナップがすべて米国外からの輸入車である点だ。米国製造の新型が登場する2027年以降、関税リスクや現地調達の観点でどう動くかが、真の競争力を左右する。EVの性能で差をつけにくくなった今、製造拠点と価格戦略が次の勝負どころになる。

まとめ

「EVをやる気がない」と批判され続けたトヨタが、市場縮小という逆風の中で非テスラ首位に立った。価格と航続距離の改善に加え、数十年分のブランド信頼が消費者の背中を押した格好だ。

ただ、今の順位はスタートラインというのが正確なところだろう。テスラの先進性のイメージはワンペダル非対応などの課題、輸入依存のサプライチェーン、そして市場全体の回復が見えない中での戦略持続力……、トヨタが本当に評価される局面は、これからもまだまだありそうだ。

カテゴリ: ビジネス
この記事を書いた人
Seita Namba
イグナイトbiz 編集長