「欧州産」に日本と英国?EUが仕掛ける異例の”身内”拡大戦略

欧州委員会は2026年3月4日、域内産業の競争力を抜本的に強化し、特定の国への過度な依存を脱却するための包括的な法案「産業加速法IAA:Industrial Accelerator Act)」を発表しました。

この法案の中心となる「Made in EU欧州産)」規定は、公共調達や補助金の対象を域内製品に優先的に割り当てるものですが、日本や英国をその対象に含める異例の方針が示されています。

産業加速法(IAA)の主な内容と数値目標

産業加速法は、ドラギ欧州中央銀行ECB)総裁が提言した「ドラギ・レポート」の勧告に基づき、欧州の製造業を再興させるために策定されました。

EU産業加速法(IAA)の戦略骨子

Industrial Accelerator Act: 2026-2035 Strategy

製造業の対GDP比率目標

2024年 (現状) 14.3%
2035年 (目標) 20.0%

※中国産への依存脱却と域内回帰を目指す数値指標

主要規定と経済インパクト

認可手続きの迅速化
最大 18ヶ月 以内の審査期限
行政コスト削減見込み
2.4億ユーロ (約400億円)
EV調達要件
欧州(+日英等)産部品比率 70% 以上

重点対象セクター

鉄鋼・アルミ・セメント 電気自動車(EV) 太陽光・風力 次世代バッテリー 水素製造装置 核燃料技術

GDP比率目標: 14.3% → 20.0%

● 認可手続きを18ヶ月へ大幅短縮

産業加速エリアによる集約化

● 日英を「信頼できる国」として認定

日本と英国が含まれる理由:信頼できるパートナーとの相互主義

本来、域内産業の保護を目的とする「メード・イン・ヨーロッパ」規定に日本や英国が含まれる背景には、以下の戦略的判断があります。

なぜ日本・英国が「欧州産」に含まれるのか?

地理的境界を超えた、3つの戦略的理由

相互主義と市場アクセス
FTA / GPA 準拠 日本や英国はEUと自由貿易協定を締結済み。相手国がEU企業に市場を開放する「相互主義」を条件に、EU原産と同等の扱いを認めます。
サプライチェーンの分断回避
既存の産業ハブを維持 英国などの日系生産拠点を排除すれば、EU域内メーカーの部品調達が困難になり、コスト増を招くリスクを回避する狙いがあります。
価値観を共有する連携
経済安全保障の強化 「志を同じくする国(Like-minded countries)」として、民主主義国家間で完結する強靭なサプライチェーン構築を優先します。
1. 相互主義

FTA締結国として、互いの市場アクセスを保証し「欧州産」と同等扱いへ。

2. 供給網の維持

英国内の日系拠点などを活用。排除によるコスト増や供給停止を防ぎます。

3. 価値観の共有

経済安全保障の観点から、信頼できる民主主義国家との連携を最優先。

対中戦略: 信頼できない供給元への依存を減らし、パートナーシップを再定義

広義での域内循環と言えるでしょう。現在の保護主義的なアメリカの関税政策とは方向性が異なるものです。

対中対抗策としての側面:過度な依存からの脱却

この法案は、公式には特定の国を名指ししていませんが、実質的には中国による市場独占への強力な対抗策として機能します。

対中・経済安全保障の強化

「戦略的自律」に向けた防御措置

不公正な競争への対抗 依存度94% (太陽光)

中国の巨額補助金に対抗し、補助金枠を「欧州産および信頼できるパートナー国(日英)」に限定。公平な競争環境を再構築します。

迂回輸出の防止 原産地ルール

単なる域内組み立てによる「欧州産」偽装を阻止。部品の70%以上を域内または対象国で製造することを義務付けます。

巨額投資への厳格な条件(FDI規制)

世界生産能力の40%以上を占める国からの1億ユーロ(約160億円)超の投資に対し、以下の条件を課します:

EU企業の過半数出資
技術移転の義務化
域内サプライチェーンへの統合
現地での雇用創出

● 補助金枠を「日英欧」に限定

中国産パネル(94%)の独占を是正

● 70%原産地ルールの導入

中国部品の「単純組み立て」を排除

● 特定国からの巨額投資を制限

1億ユーロ超の投資には「過半数出資」「技術移転」が必須条件に。

目的:経済的威圧リスクの低減と「戦略的自律」の確保

残された課題

欧州委員会は、この法案によって2030年までに鉄鋼・アルミ・セメント産業で6億ユーロ、自動車バリューチェーン全体では最大105億ユーロの付加価値が創出されると試算しています。雇用面でも、バッテリー分野で8万5,000人、太陽光製造で5万8,000人の新規雇用が生まれる見通しです。

この法案は今後、欧州議会と閣僚理事会での審議を経て正式に成立します。しかし、域内では意見が分かれています。フランスなどは自国産業を守るための強い規制を歓迎していますが、ドイツなどは中国からの報復や、安価な部品が使えなくなることによる製品価格の上昇を懸念しています。

日本企業にとっては、英国や日本での製造分が「欧州産」として認められれば大きな商機となりますが、同時にEUが求める高い低炭素基準や、部品調達の透明性を満たす必要があり、サプライチェーンの再編が迫られることになります。

筆者としては非常にEUらしい政策だという所感があります。

参考

カテゴリ: ビジネス
この記事を書いた人

Seita Namba

イグナイトbiz 編集長