Starshipは単なるロケットではない!コンセプトは文明の箱舟なんです

2025年、SpaceXのStarshipが軌道投入など、一連のテストに成功したとき、宇宙開発の文脈でよく使われる「ゲームチェンジャー」という言葉が飛び交った。だが正直に言えば、その言葉では足りない。Starshipが実現しようとしているのは、宇宙に荷物を届けることではなく、人類の居場所そのものを増やすことなのだ。

まず移動コストが下がる

宇宙開発が進まなかった最大の理由は、打ち上げコストだ。従来のロケットは1kgを軌道に運ぶのに数万ドルかかった。Starshipは完全再使用を前提に設計されており、SpaceXはその目標コストを100ドル台まで下げると公言している。この数字の妥当性はさておき、桁が変わるだけで、何が可能になるかは根本的に変わる。

AIを宇宙に送り込む

人間が月や火星に拠点を作るとき、最初の何年かは人手が絶望的に足りない。そこで従来から注目されているのが、AIと自律ロボットの先行投入だ。

構想レベルの話をすれば、Starshipが運ぶのは人間だけではない。建設ロボット、農業管理システム、採掘機、そしてそれらを動かすAIが大量に先に火星へ届く。人間が降り立つ前に、居住可能な空間がある程度整っている。これが現在SpaceXやNASA、関連研究機関が検討しているシナリオの一つだ。

SF的に聞こえるかもしれないが、地球でも似たことはすでに起きている。危険な作業現場や深海探査では、人間より先にロボットが入る。火星でそれをやるには、ロボットが数ヶ月間、地球からの指示なしで判断を下せる必要がある。通信遅延が最大24分になるからだ。

今のAIの発展度合いを見ていると出来そうな気がしてくる。

月:火星への前哨基地

月はそれ自体が目的地でもあるが、火星へ向かうためのテスト環境でもある。月面では水氷が確認されており、これを電気分解すれば水素と酸素、つまりロケット燃料になる。現地で燃料を作れるなら、地球から全てを持ち込む必要がなくなる。

つい最近、イーロンマスクはまず月に力を入れること。そして月面に工場とマスドライバーを設置するというコンセプトを明らかにした。月は火星だけではなく、ありとあらゆるところに行くための前哨基地になる。

Starshipは、この月面拠点の建設に必要な大量の資材を届ける手段として、NASAのArtemis計画でも採用されている。月着陸船のベースとしての役割だ。

火星:文明の避難所

火星は地球から最短で約5500万km離れており、打ち上げに最適な期間は2年に一度しかない。つまり一度火星に行ったら、次の帰還チャンスまで2年弱待つことになる。Elon Muskが「100万人の火星都市」を語るとき、その非現実性が取り沙汰される。

しかし、非現実性なんてものはイーロンマスクにとってどうでもいいものだ。火星を単なるフロンティアとしてではなく、地球で何か大きな問題が起こったときのバックアップとしようとしているのだ。

現状の技術では、一度に数人しか送れない。一方、Starshipは100トン以上のペイロードを火星に届けられる設計で、有人と貨物を同時に運べる。人だけの輸送に絞れば、従来の宇宙船に比べて乗る人数のオーダーが変わってくる。さらに、複数機、定期的に飛ぶようになれば、話はまったく変わってくる。

その先

木星の衛星エウロパには液体の水がある可能性がある。土星の衛星タイタンには有機物が豊富にある。これらの調査や、さらに遠い天体への到達は、現状のロケット技術では現実的な話ではない。Starshipがコストと輸送力の問題を変えたとしても、それだけで解決するわけでもない。

ただ、探索の第一歩は「そこに行けるかどうか」だ。Starshipが足掛かりを作り、AIと機械を送り込み、その橋頭保を元に太陽系全体をフル活用する。いま、イーロンマスクの頭の中にある構想はこれだろう。

文明を別の惑星に広げるというのは、壮大に聞こえる。実に壮大だ。ただしそれはSFや、夢の話ではなく、現在進行中の突破すべきタスクなのだろう。Starshipはそのタスクに、今のところ最も本気で取り組んでいる機体だ。

カテゴリ: テクノロジー・先端科学 宇宙
この記事を書いた人
Seita Namba
イグナイトbiz 編集長