Fire Phoneの失敗から12年が経った。あのとき何が起きたかは、まぁ……語り草になっている。199ドルで出した端末が3か月で99セントになり、1年で販売終了。損失は約1億7,000万ドル。Amazonにとって、あまりない大失敗だった。
そのAmazonが、またスマートフォンを作ろうとしているらしい。
プロジェクトのコードネームは「Transformer」。社内に「ZeroOne」という特別チームを立ち上げ、XboxやZuneを手がけた元Microsoft幹部の J・アラードが率いている。AIとAlexaをがっつり統合したデバイスで、Amazon.com、Prime Video、フードデリバリーアプリへのアクセスをAIとの会話だけで完結させる構想らしい。アプリストアは、最初から想定していない設計だという。Amazon経済圏だけで完結させるつもりなのだろう。
「Light Phone」に触発された、あえてシンプルに作る「ダムフォン」タイプの並行開発も検討されているとされる。スクリーンはLCDかOLED、あるいは電子ペーパー(E-INK)も候補に入っているとのことで、本当にどんな端末になるかはわからない。コンセプト自体がまだ定まっていない印象を受ける。
なぜFire Phoneは死んだのか
Fire Phoneが失敗した理由を一言で言えば、「使える理由がなかった」だ。
AndroidでもiOSでも動く人気アプリが、Fire OSでは動かなかった。3Dディスプレイは電気を食い、端末は熱くなった。Primeメンバーシップを1年分タダでつけても売れなかった。当時の開発体制もひどかったらしく、ジェフ・ベゾスがすべての会議に出席し、チームはベゾスの意向に沿うことを最優先せざるを得なかったという。端末がいろんな意味で「終わった」あと、多くの開発者が解雇された。
今回は何が違うのか
「今度こそうまくいく」と言い切れる根拠はまだない。
それでも状況が違う点はある。Amazonは2026年にAI関連で2,000億ドルを投資する計画を立てており、OpenAIへの500億ドル出資もその一部だ。Alexaは2025年2月に「Alexa+」として生成AI搭載の大規模アップデートを受け、別物に近い存在になっている。組織もベゾス時代のトップダウンではなく、専門チームが自律的に動く体制に変わっている。
iPhoneやGalaxyを置き換えるのではなく、それらに加えて使う「第2のデバイス」として売ろうという戦略も検討中とされる。アプリストアの壁を正面突破するのではなく、迂回するやり方だ。Fire Phoneが真正面から戦って負けた相手を、今度は回避しようとしている。
それでも越えられない壁がありそう
AppleとSamsungで世界出荷台数の約40%を占める市場に新規参入する難しさは、今も昔も変わらない。R.W. BairdのアナリストであるColin Sebastian氏は「消費者は既存のアプリストアに強く依存しており、そこを突破するのが最大の課題」と指摘する。部品コスト高騰の影響で、2026年の世界出荷台数は13%減の予測も出ている。通信キャリアとの契約もまだ取れていない。
Amazonはこのプロジェクトのリーク情報についてコメントを出していない。具体的な発売時期も、投資額も、まだ外部には出てきていない。中止になる可能性も大いにありそうだ。
第二のFire Phoneになるか否か
Fire Phoneが死んだ本質的な理由は技術ではなく、「なぜこれを買うのか」という問いへの回答がなかったことだ。3Dディスプレイは答えにならなかった。
今回のTransformerとやらは、その問いにAIで答えようとしている。アプリをダウンロードしなくても欲しいものが手に入り、見たい動画が見られ、飯が頼める端末。それが本当に実現すれば、話は変わってくるかもしれない。拡張性はなさそうだが、Amazon経済圏を考えれば日常使用に十分な端末になるかもしれない。
ただ、AIがスマートフォン体験を書き換えられるかどうかは、Amazonに限らずまだ誰も証明できていない。Transformerが市場に出てくるとしたら、その答え合わせが始まる日だ。
以外とスマホなんて必要ではなく、Amazon Echoみたいな端末だけで十分になる時代が来るかもしれない。ちょっと楽しみだ。
